チューリッヒ周辺紀行3

朝8時起床。雨の中トラムの乗り、緑溢れる高級住宅街にあるクリスチャン・ケレツ設計の「一枚の壁の家」へ。

このケレツ自邸は2世帯住宅で、片側にケレツが、反対側にお父さんが住んでいるらしい。コンセプト模型をみないと分からないかもしれないけど、平面は同じなのだが一枚の壁が各層ごとに異なる形状をしているので、2つの異なる空間が各階ごとにズレながら積層している。しかしこの人の建築のガラスは美しい。

中央駅へ向かい、2時間ほどかけてローザンヌへ。先日旅行した険しい山岳部とは打って変わり、ローザンヌはフランス風の建物が並び、南フランスに来たかのよう。日差しも心なしか柔らかい。チューリッヒはドイツ語だが、ここでは人もフランス語を喋る。天気が回復し、夏のような気候の中コルビュジェの「母の家」へ。先輩は予めWebサイトなどでチェックし休館でないことを確かめていたのに、しっかり閉まっていた。流石フランス圏。

母の家の門の前で愕然と立ちすくむ先輩。

悔しいので近くのフェンスに上ってみる。

そのまま海側の岩を伝って正面にも回ってみた。
「先輩、これ違法行為じゃないですかね」
「いや竹山君、我々は海水浴の下見にきたんだよ」
外装は完全に張り替えられているようだ。全般的に痛みが甚だしかった。
(念のため断っておくと、前面の岩から眺めただけで敷地には入っていませんよ)

そこから電車で少し行き、ローザンヌ大学へ。学食「ル・コルビュジェ」で昼食をとった後、SANAA設計のRolex learning centreへ。写真で見る限りいたるところに無理が出ていたので、ガッカリ建築だと思っていて、正直あまり期待していなかったのだが、実際行ってみると全然違う。控えめにいって、とても良かった。

こんなことをいうのは恥ずかしいのだが、現代建築で初めて深い感動を覚えた。美しい空間に感動したとかではなく、叱咤激励された感じがしたからだ。建築はこんなに面白くできるんだって。

非常階段は何メートルおきにないといけない、スロープがないといけない、リフトがないといけない、視覚障害者の誘導ブロックがないといけない・・・。近年の建築に対する過剰なまでの要求は、実質的に建築の均一化を推し進めている。少しでも周りと違うことをすれば「利用者のことを考えていない」「建築家のエゴ」と叩かれる。そんな閉塞感漂う状況の中、SANAAはそれらの要求を満たしつつもきちんとコンセプトを守りきり、公園のような建築を実現していた。勿論模型ほど純粋に出来ているわけではないが、それでも彼らの意思は貫かれている。

こういうことを言うのは大抵しょーもない人が多いのであまり言いたくないけど、でもやはりこれは実際に足を運んで体感しないと分からない空間だと思う。まだ建築も捨てたもんじゃないぞ。

帰り際にDevanthery & Lamuniereの図書館の増築を見学。ミースのような清家清のような、非常に綺麗な小さな読書室。よくみると完全に宙に浮いている。


空港まで送ってもらい、ピザを食べてから別れる。無事にスイスで仕事が見つかることを祈ってます。