大雨・高潮・ビエンナーレ

10月28日(金)
朝ホテルを出ると、周囲が水浸し。僕がいる間にベニスはかなり深刻な高潮に遭遇し、サン・マルコ広場周辺は最早湖と化してしまっていたのだ。水に浸る街ってのはロマンティックに聞こえるけど、実際に遭遇するとちょっと洒落になりません。

一応高床式の臨時遊歩道が整備されていたけど、それも広場のメインの導線のみで、他はとても歩ける状態に無い。どうするのかというと、みんな長靴を買うか、ビニールで出来た臨時長靴を買っていたので、僕もビニール長靴を購入。靴の上からはくタイプ。

今まで歩けなかった場所が歩けるようになるので、ドラクエとかで飛行系の乗り物を手に入れたような感覚で楽しい。

店の人は高潮時用の防壁を店の入り口にセットしてなんとか浸水を防ごうとしていたが、当然全てを遮断できるわけはなく徐々に浸水する。困っている店のおっさん。

とはいえ高潮は低地のみ。なんとか11時ごろにビエンナーレ会場へたどり着くと、会場付近は冠水していなかった。ベネチア・ビエンナーレ建築展というのは2年に一度開催される建築の展示会で、世界中から著名な建築家が集まり作品やインスタレーションの展示を行うイベントのこと。毎回異なる建築家がオーガナイザーとして選ばれ、展示のテーマを決めることになっている。今年は英国のDavid Chipperfieldがオーガナイザーで、テーマは” Common Ground”だった。僕は今年が始めての見学。

会場は大きく2つに分かれており、各国のパヴィリオン毎に展示を行うGiardiniと、ひとつながりの古い倉庫を展示会場として使っているArsenaleがある。多くのパヴィリオンがを駆け足で見たので見落とした部分や勘違いしている展示も多いと思うが、個人的に印象に残ったものをいくつか。

ロシアのパヴィリオンは入り口でi padを渡され、中へ入るとQRコードが装飾のように部屋全体に張り巡らされた空間が。このQRコードを読み込むと、i pad状に現在ロシアで進行中のプロジェクトが示されるというもの。異なるQRコードに対し異なるプロジェクトが表示され、僕は知らないプロジェクトが多く新鮮だったので、集めていくのが楽しかった。

Nordic pavilionは展示よりも建築に目がいってしまう。Sverre Fehnのマスターピース。コンクリートのビームを格子状に組んでいるだけなのだが、上から柔らかく降ってくる光に照らされた天井は本当に美しい。既存の樹木を避けるように建物が設計されており、建築内部に木が何本も貫通している。

今回見た色々な展示の中で、単純な展示の面白さで言えば圧倒的だったのがAustria Pavilion。何も知らずに入ってしばらく呆然とした。小さい入り口をくぐると、目の前に垂直な水溜りがあったからだ。まあ勿論水が垂直にたまるわけは無く、鏡のような反射をもつ非常に薄い膜が貼られているのだが、風が吹くとその表面がゆらゆらと揺れて、まるで垂直に聳え立つ水のように見える。これは実際に見てみないと分からないと思うけど、ある種の自然現象を再現していて非常に面白い展示だった。

でも一番良い展示は日本館だったと思う。震災の復興の為に作られた住宅の建設プロセスのドキュメンタリー。最終的な形には疑問が残るが、あれを見せられて「建築とは何か」と「建築にできることは何か」を考えない建築関係者はいないはずだ。金獅子賞に相応しい、というか、これに賞をあげない訳にはいかなかっただろう。一番エモーショナルな展示だった。

あと日本館は自分の師匠の師匠にあたる方が設計したものなので、学部の頃から図面などは何度も見てたから実際に見ると感慨深いものがあった。会場には多くのパヴィリオンがあるけど、これはその中でもかなり良かったと思う。

展示会場は18時に閉まると言っていたので駆け足で周ったのだが、19時になっても普通に開いていた。流石イタリア。外に出ると既に真っ暗。雨はますます酷くなり、広場付近の水かさは益々増していた。寒かったけど、夜景は美しい。

疲れたのでちょっと良いレストランで晩御飯。高かったけど美味しかった。