激務だが刺激的

ゆっくりした週末とは打って変わり、今週は木曜の朝に予定されていたAさんのミーティングの為に月曜から全力投球。しかし光が見えない。この仕事に関しては、間違いなく今までの設計の中で最も苦しんでいる。原因ははっきりしていて、今まで与えられた敷地の中で最も面白い条件だからだ。使いたい要素が山積みだが、使えない要素も多い。全部を覆ってミニマルな白い空間に逃げないというのは前提条件。歴史ある空間のエレメントを基盤にしつつ、全体として現代的な空間にしたいのだ。「1000年との対話」というと聞こえはいいが、実際にやるとなるとこれがまあ難しい・・・。

月は22時、火曜は25時、水曜は結局朝6時まで働き、7時ごろ一旦帰宅しシャワーを浴びて着替えてからすぐ出勤という完徹になってしまった。僕は与えられた責務を勤務時間で終らせれないやつは仕事ができないヒトだと思うのだが、今回の仕事に関してはこれだけ面白い条件を与えて貰いながら、ボス以前に自分が納得いくものが出ないのだから仕方ない。せめて精一杯やるだけはやったと思えないと、自分の救い様が無い。

納得できるものではないが、なんとかプレゼンできるところまで持っていって、朝10時半にボスと2人タクシーでAさんのスタジオへ。僕の身長ほどの大きさの模型を抱えながら会議室に行くと、秘書のLさんが青い顔で走ってきて「ミーティングはキャンセルになったのよ!本当にすみません」と平謝り。どうやら昨日(水曜)がAさんの誕生日だったらしく、大勢でのパーティが開催され、そこで「オランダのとある街でやっているイベントが面白い」という話を聞いたAさんは、「よし、そこに行く!」と言って早速出かけてしまったらしい。

まあこういうこともあるさ、仕方ないと帰ろうとしたら、気の毒に思って気を使ってくれた秘書さんが「折角きたし、時間があるならスタジオ見て行きますか?」と言ってくれる。ボスと目を合わせ、二人同時に「Why not?」と。オフィスには何度も来ているが、実際に作品を製作している現場に足を踏み入れたことはない。ミーティングがキャンセルになったお陰で世界的な芸術家の創作現場を垣間見れることになった。

Aさんのスタジオは古い倉庫を改装したもので、10x20mくらいの空間が6個連なっている。最初の建物はオフィスで、事務処理を担当するスタッフが働く事務所と会議室がある。次の部屋がメインの工房で、Aさんの代表作である皿のような彫刻のほか、粘土やワックスの作品の製作がされている。その隣はコンクリートのワークショップで、2011年のRAの展示で賛否両論を読んだ「糞と建築のあいだ(直訳)」のようなコンクリートを使った作品を製作している。次の部屋はレジンを使った工房で、異臭漂う大空間の中、マスクを着けた超美人の女性達が楽しそうに作業していた。そのあとの2つはギャラリーのような真っ白い綺麗な部屋で、ここは工房からあがってきた作品をAさんが最終確認するために使われる。作品として公表するかどうか最終判断をする部屋のため、実際の展示空間のようなスペースとなっているらしい。中央には綺麗に陳列・展示されている作品があり、端には未公開の作品が山積みになっていた。一番最後の部屋はAさんの個人アトリエで、外部の人は一切立ち入り禁止、スタッフですら基本的に足を踏み入れない神聖な場所となっているようだ。彼は用事が無いときは基本的にここに篭っており、最近は一人で大きな絵を描いているらしい。

どの部屋も空間自体がひとつの彫刻作品のようで、inspiringという言葉がぴったりの素晴らしいアトリエだと思った。大変な刺激を貰ったが、考えてみれば僕達はこの芸術家が寝起きする空間をデザインしているわけで、設計屋としては最高のprivilegeだ。

現在オフィスを探し中のボスは、会社に帰ってからどこもかしこも模型に占拠されている我が社のあまりの狭さに愕然とし「やっぱ広い空間が欲しい!」とわめき散らしていた。しかし僕も広い空間が欲しい。ほとんどの模型作ってるの僕だし、気持ちよく作業したい。Sohoは職場としてはロンドンで一番面白い場所だと思うけど、その為に狭い空間にいないといけないくらいなら、辺鄙な場所でもいいから広くて気持ちよい空間が欲しいなぁ。

Aさんのミーティングが来週になったので、北ロンドンの住宅にかかる。金曜はコミサンとダニエルがオーガナイズしていたレクチャーがダイワであったが、仕事が長引いてようやく着いたのは20時過ぎ。すでにレクチャーは終わり、皆解散した後だった。がっかりして帰宅。